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川越:あの「江戸の町並み」は、火事のあとに建てられた
日帰り旅行

川越:あの「江戸の町並み」は、火事のあとに建てられた

西武新宿から北へ47分。黒漆喰の商家が重い瓦屋根の下に連なり、その上に木造の鐘楼がそびえています。小江戸——東京が失った江戸の町並みが、ここには残っている。そう紹介されるのが常です。

それは本当です。けれど、話としてはもう少し面白い。いま目の前にある建物の多くは、明治20年代に建てられたものだからです。そして、その理由は火事でした。

時の鐘を背にした、川越の蔵造りの町並み

明治26年の、川越大火

明治26年(1893年)3月17日の夜、川越に火が出ました。北からの強い風、連日の晴天、乾ききった空気。消火に使う井戸水も尽きました。

翌朝までに焼けたのは17町、1,302戸。当時の川越町の、およそ三分の一です。

ほとんどが燃えました。燃えなかったのは蔵造り——江戸の商人が、まさにこういう夜のために発達させた、分厚い土壁の耐火建築でした。生き残った一棟、大沢家住宅寛政4年(1792年)の建築で、今もそこに建っています。

川越の商人たちの結論は早かった。大火の後の2〜3年で、目抜き通りには200棟を超える蔵造りが建ちました。東京から職人を呼んで建てたものもあります。それが、いま私たちが歩いている通りです。

つまり——ここに建っているのは明治の建物であり、様式は江戸のもの。「江戸の町並み」というより、「商人が、怖い思いをした直後に建てたもの」なのです。あの重厚さは、意匠ではなく、防火性能です。そう思って見上げると、同じ屋根がまるで違って見えます。

蔵造りの町並み

蔵造りの町並みには、約400mにわたって約30棟の蔵造りが残ります。平成11年(1999年)12月に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

蔵造りの商家。店先にガチャガチャの機械が並ぶ

建物を見上げると、読み方が分かってきます。異様に厚い軒。重い鬼瓦と影盛。火の粉を防ぐために閉め切れる、頑丈な観音開きの扉。

そして視線を下ろすと、ガチャガチャの機械と、プリクラの幟と、自動販売機があります。

私は、これでいいと思っています。ここは現役の商店街であって、屋外博物館ではありません。この建物を維持しているのは、その店で物を売って得たお金です。きれいに整えて静かにしてしまったら、見栄えはよくなって、そのぶん死んでしまう。

時の鐘と、二つの「100選」

屋根の上にそびえるのが時の鐘。最初のものは、川越城主酒井忠勝寛永4年〜11年(1627〜1634年)のあいだに建てたと伝えられます。いま建っているのは4代目で、再建は明治27年(1894年)——大火の、翌年です。3層構造、高さ約16m。市指定文化財。

通りから見上げる時の鐘。手前に人力車

今も1日4回、6時・正午・15時・18時に鳴ります。平成8年(1996年)には、環境庁の「残したい日本の音風景100選」に選ばれました。

正直に書いておきます。鐘を撞いているのは自動鐘打機で、人ではありません。それでも損なわれるものは何もない、と私は思います。本物の鐘が、本物の鐘楼にあって、正午の細い通りでは、その音はちゃんと重さをもって届きます。

さて、もう一つの100選です。歩いて10分の菓子屋横丁は、環境省の「かおり風景100選」に選ばれています。

音の100選と、香りの100選。それが歩いて10分の距離に、ひとつの町に。 小さなことですが、ずっと頭に残っています。

菓子屋横丁は、震災でできた

川越の菓子屋の始まりは明治の初め。養寿院の門前で、鈴木藤左衛門が江戸っ子好みの気取らない菓子を作ったのが最初と伝えられます。

そして、ここが一気に増えた理由も、やはり「よそで起きた災害」でした。関東大震災(1923年)で東京の菓子製造が壊滅すると、川越がそれに代わって、千歳飴・金太郎飴・水ようかん・かりんとうを全国へ供給したのです。昭和の初めには、この一角に70軒以上が並んでいました。

いまは20数軒。石畳の路地に、手作りを続けている店が残っています。ニッキ飴、手引き飴、そしてふ菓子。子どもの背丈ほどもある長いふ菓子を抱えて歩いている人と、必ずすれ違います。あれは誰かが演出しているわけではありません。

正直なところ: 20数軒は「横丁」であって「エリア」ではありません。15分もあれば見終わります。人が増える前の午前中、品物が売り切れる前が、いちばんいい時間です。

川越氷川神社と、一日20体の石

旧市街の端にあるのが川越氷川神社。約1,500年の歴史をもつ、川越の総鎮守です。縁結びで全国に知られています。

その縁結び玉の仕組みが、とてもよくできているので、きちんと書いておきたいのです。

身を清めた巫女が、本殿前の玉砂利を一つひとつ拾い集め、麻の網に包んで神前にお供えする。それが縁結び玉で、毎朝8時から、1日20体、無料で授与されます。

そして、これは「借りるもの」です。生涯を共にする相手と巡り合えたとき、二人でお参りして、お返しする。代わりに、ご縁が長く堅く続くよう祈願された特別なお守りをいただけます。

無料で、意図的に数が少なくて、取引が完了するのは何年も先、しかも一人ではなく二人で。よくできた設計だと思いませんか。

境内にはもう一つ、木製として日本一とされる大鳥居(高さ約15m)があります。扁額の字は勝海舟の筆。江戸城の無血開城を成し遂げた——つまり江戸時代を終わらせた人が、江戸を残した町の神社の鳥居に、字を書いている。

静かにお参りください。 ここは記念物ではなく、現役の神社です。縁組みのこと、家族のこと、失ったもののことを祈りに来ている方がいます。

参拝は無料で、縁結び玉にもお金はかかりません。ここは、ただ喜ぶより、理由まで知っておきたいところです。無料なのは、商売ではないから。 神社は体験を売っているのではなく、ただ開いてくださっているのです。

ですから、本殿の近くでは声をひそめ、祈っている人にカメラを向けず、掲示に従ってください。朝8時に縁結び玉の列に並ぶなら、隣に立っているのは観光客ばかりではない、ということも覚えておいていただけたらと思います。こういう場所が開かれたまま、無料のままでいられるのは、訪れる人がそうしてきたからです。

予定を立てる前に確認を: 縁結び風鈴などの季節行事は、時期が限られ、日程は毎年発表されます。風鈴を目当てに行かれる場合は、必ず神社の発表をご確認ください。

10月の、あの土日

氷川神社の例大祭が川越まつり10月の第3土曜・日曜に行われます。

二層の櫓の上に、大きな人形を掲げた江戸型山車。それを、氏子の旧町内が、いま歩いたばかりのあの通りへ曳き出します。

平成17年(2005年)に国の重要無形民俗文化財、平成28年(2016年)にはユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に登録されました。

ですからこの週末は、川越に行くのに最高の日でもあり、最悪の日でもあります。町は圧倒的で、そして満員です。どちらを取るか、決めてから行ってください。

奥に庭がある、スターバックス

時の鐘から1分、鐘つき通りにあるのが蔵造りのスターバックス。2018年3月の開店で、外装には埼玉県産の杉材と瓦が使われています。スターバックス自身が選ぶ「行くべき20店」にも入りました。

鐘つき通りにある、蔵造り様式のスターバックス

多くの人は正面を撮って、そのまま行ってしまいます。中に入って、奥まで進んでください。 建物の裏手には日本庭園があり、そこにテラス席があります。77席のうち21席は、その庭の側です。石畳を歩いたあとの休憩としては、川越でいちばん割のいい一杯だと思います。

小さいもの

川越には、丸型ポストが残っています。全国ではほとんど見かけなくなった、あの円柱形の鋳鉄製です。

川越の街角に立つ、昔ながらの赤い丸型ポスト。奥は観光案内所と蔵造りの町並み

飾りではありません。ちゃんと集配されている現役のポストなので、ここから手紙を出せます。たいていのお土産より、いい記念になると思います。

行き方

西武新宿駅から: 特急「小江戸」が本川越まで直通、約47分。乗車券(ICで約503円)に加えて特急券(約500円)が必要で、合計およそ1,000円。全席指定です。同じ線の各駅停車なら、安いぶん時間がかかります。

そのほか: 池袋からの東武東上線JR川越線でも川越駅に着きます。池袋側にお住まいなら東武が早いです。

西武・東武それぞれに、往復乗車券に路線バス乗り放題などが付いた割引きっぷがあります。都内から日帰りするなら、一度調べる価値があります。

鉄道がお好きな方へ。 特急小江戸は現在10000系「ニューレッドアロー」で運行されています。西武は2027年春から新型車両「トキイロ」への置き換えと列車名の変更を発表しました。レッドアローで小江戸へ行けるのは、あと少しです。

半日で回るなら

旧市街はコンパクトで、以下はすべて互いに徒歩15分圏内です。

  1. 本川越駅——時の鐘まで徒歩15分ほど
  2. まず菓子屋横丁(品物があるうちに)
  3. 蔵造りの町並みを、ゆっくり、見上げながら
  4. 時の鐘——正午か15時に近くにいられるように
  5. スターバックスと、奥の庭
  6. 最後に川越氷川神社

縁結び玉が目当てなら、順番をひっくり返して、朝8時に神社からどうぞ。

基本情報

  • エリア: 蔵造りの町並みと旧市街/埼玉県川越市
  • 最寄り駅: 本川越駅(西武新宿線)/川越駅・川越市駅(東武東上線・JR川越線)
  • 新宿から: 特急「小江戸」で約47分、特急券込みでおよそ1,000円
  • 蔵造りの町並み: 通りなので無料・随時
  • 時の鐘: 見学無料/6時・正午・15時・18時に鳴鐘
  • 菓子屋横丁: 20数軒、概ね日中営業(店により異なる)
  • 川越氷川神社: 境内無料/縁結び玉は朝8時から1日20体・無料
  • 川越まつり: 10月第3土曜・日曜
  • 所要: 半日。神社と昼食を入れるなら一日

川越を、持ち帰る

建物のほうが記憶に残ったのなら、そのための一冊があります。

『川越の建物 蔵造り編』(仙波書房・2022年)は、蔵造り18棟を一棟ずつ取り上げ、概要と歴史、特徴、そして昔の写真と現在の写真の比較を並べた本です。158ページ、A5判。『川越の建物』編集委員会の編著で、建物イラストにはアニメ制作会社feel.が協力しています。シリーズ第1弾は『近代建築編』。

歩いたあとに開くと、通りすがりに見上げただけの一軒が、急に読めるようになります。

→ この本については、別記事でもう少し詳しく書きました。

着物で歩く

町を歩いている着物姿の方の多くは、その着物をお持ちではありません。レンタル店が着付けとヘアセットまでやってくれて、そのまま一日過ごせます。きものレンタルwargo 川越店は本川越駅から徒歩3分。着物・帯・バッグ・草履込みで4,400円〜です。

正直なことを二つ。この通りを背景にした写真は、たしかによく写ります。ただし、石畳を草履で6時間は、それなりの覚悟がいります。オプションの翌日返却は、近くに泊まるなら使う価値があります。

電車の乗り継ぎを考えたくない日には、川越を含むバスの日帰りツアーもあります。

そして、蔵造りの通りがいちばん美しいのは、日帰り客がいない早朝と夕方以降です。それを見るには、泊まるしかありません。

川越東武ホテルをKlookで見る →

同じ西武新宿線で

川越は、東京の西の住宅街を走るあの線の、いちばん先です。途中に、寄る価値のある駅が二つあります。

上井草駅は、踏切のすぐ目の前で電車が停まる、この線でいちばんの撮影地。南口には等身大のガンダムが立っています。そして観泉寺は、上井草から歩いて14分の、拝観無料の額縁紅葉。11月下旬なら、川越と同じ日には詰め込めませんが、同じ線の上にあります。

レッドアローが気になった方には、『西武鉄道の世界』を。沿線の撮影地ガイドが載っています。

こんな方へ

一日空いていて、「まだ生きている旧市街」を歩きたい方へ。なぜこの形をしているのかを知ると、その場所がもっと好きになるタイプの方へ。そして——毎朝20個だけ石を配って、「相手が見つかったら二人で返しに来てください」と言う神社。その発想がいいと思える方へ。

注記:電車の時刻・運賃、店舗の営業時間、祭りの日程、神社の行事は変わることがあります。お出かけ前に最新の時刻表と神社の発表をご確認ください。

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