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長瀞:地下20キロから上がってきた岩の上を歩く
日帰り旅行

長瀞:地下20キロから上がってきた岩の上を歩く

池袋から北西へ90分ほど。荒川のある一角では、川岸が「岸」ではありません。です。灰色の平らな岩が木立から水際までずっと続き、きれいに層をなして割れ、全体がわずかに傾いています。誰かが石のテラスを敷きかけて、途中でやめたように見えます。

岩畳(いわだたみ)と呼ばれています。人が造ったように見えますが、そうではありません。いま立っているこの岩は、地下20〜30キロメートルから上がってきたものです。

長瀞の岩畳。砂利の上に和舟が引き上げられ、奥に荒川が流れる

なぜ、こんなふうに割れるのか

ここの岩は結晶片岩(けっしょうへんがん)といって、日本列島を長く横切る三波川帯(さんばがわたい)という変成岩の帯に属しています。

成り立ちを短く言うと、こうなります。大陸のふちに積もった堆積岩が、プレートの沈み込みにつれて地下へ引きずり込まれる。地下20〜30キロ、たいへんな圧力のもとで、中の鉱物が並び直す。この性質を片理(へんり)といい、ジオパーク秩父の言葉を借りれば「パイのようにうすく剥がれやすい」岩になります。

そのかたまりが、また地表まで戻ってきた。あとは荒川が、とても長い時間をかけて上の土を洗い流した。こうして、どんなボーリングも届かない深さでできた岩が、平らなまま外気にさらされ、その上を川が流れている——という場所ができました。

長瀞が「地球の窓」と呼ばれるのは、そのためです。うたい文句ではなく、かなり文字どおりの説明です。

日本の地質学は、ここから始まった

日本に近代地質学が入ってきたのは明治のことで、それはほとんど同時に秩父へ来ています。

ナウマンが政府に招かれたのが明治8年(1875)明治10年(1877)に東京大学初代の地質学教授となり、明治11年(1878)には秩父を訪れています。「日本地質学の父」と呼ばれる人で、この谷は初期の日本の野外調査が集中的に行われた場所でした。

そのあとも名前が続きます。小藤文次郎1888年にここで紅簾石片岩(こうれんせきへんがん)を報告——世界で最初の報告でした。大塚専一が「秩父古生層」「秩父盆地」を命名。原田豊吉1890年に「山中地溝帯」を命名。そして明治34年(1901)、地質学者の神保小虎が「我が国の地質学者が一生に必ず一度は行きて見るべき」場所だと書き残しています。

宮沢賢治が学生の巡検で訪れたのは大正5年(1916)のことです。

そして大正13年(1924)12月9日、この一帯は国の名勝および天然記念物に指定されました。景色と地質の、二重の指定です。

川辺で半日過ごすのに、これらを知っている必要はまったくありません。ただ、知っていると見えるものが変わります。それが知ることの効用だと思います。

徒歩5分の博物館

岩に少しでも興味があるなら、ひと駅手前で降りてください。

埼玉県立自然の博物館は、秩父鉄道の上長瀞駅から徒歩5分です。ここにはパレオパラドキシア——およそ2000万年前、このあたりが海だったころに生きていた海獣——の骨格復元像があります。

この動物の名前は覚えておいてください。あとで蒸気機関車に化けて出てきます。

舟に乗る

岩畳をもうひとつの角度から見る方法が、川の上からです。長瀞ラインくだりは、荒川のこの区間で和舟を下ろし続けてきました。船頭は流れと戦うのではなく、流れを読んで竿を差します。

砂利の上に引き上げられた長瀞ラインくだりの和舟。奥に岩壁と秋の色づいた木々

コースは2つ。それぞれ約3キロ、水量があるときで約15〜20分です。

  • Aコース——親鼻橋から岩畳まで。途中の小滝の瀬が、雑誌やポスターでよく見るあの急流です。
  • Bコース——岩畳から高砂橋まで。川幅が広く、大河瀬(おおかわせ)という急流があります。

料金(14名以下の場合)は大人2,000円・小人1,000円。ゴールデンウィーク、夏休み、紅葉シーズンなどの繁忙期は2,200円・1,100円になります。舟は人がそろい次第、10〜40分間隔で随時出るので、個人は予約不要、当日窓口で買えます。15名以上の団体は2週間前までに電話予約が必要です。

正直に、3つ。

ひとつめ。全長6キロの「全コース」は、現在営業を見合わせています。両方乗りたい場合は乗り継ぎの案内になります。全コース前提で予定を組む前に確認してください。

ふたつめ。川の上にいる時間は、水量で変わります。20分というのは水がしっかりあるときの話で、渇水期はもっとゆっくり、おだやかになります。それを良しとするかは好みです。

みっつめ。ペットは乗せられません(2022年3月から)。

冬は、こたつを入れた舟に切り替わります。膝を入れる布団つきの舟で川を下る——聞いたとおりに良いものです。

谷そのもの

岩畳を離れれば、ここはただ単純に、とても良い川の谷です。広い河原、秋になると銅色になる背の高い草、11月の3週間ほどで緑から錆色へ変わっていく山。

秋の長瀞、荒川の谷。河原と赤茶けた草、奥に色づいた山なみ

川について、ひとこと。夏には泳いだり水に入ったりする人がいて、岸から見る荒川はおだやかです。ですが場所によって流れは強く、上流で雨が降ると水位はすぐに上がります。掲示のある範囲から出ないこと。急流は、舟から眺めるものだと考えてください。

長瀞駅

川へ向かう前に、駅そのものを2分だけ見てください。

長瀞駅の木造駅舎。入口の上に旧字体で書かれた駅名板が掛かる

木造で、入口の上には旧字体の「長瀞驛」の板。柱には「関東の駅百選認定駅」の札が下がっています。カエルがいます。次の列車が何番線から出るかは、手書きの札で知らせています。生きている田舎の駅で、ちゃんとそう見えます。

川へ向かう道で食べるもの

駅から岩畳へ下る道は短い商店街で、炭の匂いがします。

出ていたらぜひ食べてほしいのが鮎の炭火焼きです。塩を振って串に刺し、炭火のまわりに立てて、皮がふくれるまで焼いたもの。熱いうちに、歩きながら食べてください。この通りでいちばん良いものです。

もうひとつ足を止める価値があるのが五平餅。平たい木の板に米を押しつけ、甘辛い味噌を塗って、縁が焦げるまで焼いたものです。

黒い盆にのった五平餅2本。味噌が焦げて艶が出ている。奥に囲炉裏

私たちが食べた店では、囲炉裏のそばに出てきました。床に切った炉に砂が盛られ、鉄瓶が下がっている。晩秋、火が入っていると、なかなか腰が上がりません。

長瀞は天然氷のかき氷でも知られています。冬に切り出して氷室で寝かせた氷を削るもので、有名店は夏に長い行列ができます。寒い時期は列が短くなり、暖房のそばでかき氷を食べるという地元の酔狂に加わることができます。

行き方

池袋から——きれいなほう。西武池袋線の特急で西武秩父へ。走っているのはラビューで、これがなかなか奇妙で良い車両です。丸い銀色の先頭部と、ホームから見ると車内を通して反対側の家並みが見えてしまうほど大きな側窓。

西武の特急ラビューの丸い銀色の先頭部。山あいの駅のホームで

ラビューの巨大な側窓。黄色い座席と、車内を透かして見える反対側の景色

座席は、ためらいのない黄色です。

ラビューの黄色い座席と大きな窓。案内表示には横瀬・西武秩父の文字

西武秩父から徒歩数分の御花畑駅秩父鉄道に乗り換え、谷を下って長瀞へ。

熊谷から——単純なほう。新幹線やJR高崎線で来るなら、熊谷は秩父鉄道の東の起点です。乗り換えなしで長瀞まで行けます。

時刻と運賃は、出かける前に必ず最新のものを確認してください。どちらも変わりますし、特急は運賃のほかに特急券が必要です。

うまくいく一日

  1. まず上長瀞駅で自然の博物館へ。20分でも足りますし、岩に捕まったら1時間
  2. ひと駅乗って長瀞駅
  3. 商店街をゆっくり下る。食べながら
  4. 岩畳。岩の上まで歩いて、割れ方を見る
  5. 水量がよければ
  6. 帰りの列車の前に、かき氷かコーヒー

半日で足ります。舟と昼食を入れるなら一日。

基本情報

  • 場所:埼玉県秩父郡長瀞町 岩畳
  • 最寄り駅:長瀞駅(秩父鉄道)/博物館は上長瀞駅
  • 池袋から:西武池袋線の特急で西武秩父、御花畑から秩父鉄道
  • 熊谷から:秩父鉄道で乗り換えなし
  • 岩畳:河原。見学無料
  • 指定:国指定 名勝および天然記念物(大正13年12月9日)
  • ラインくだり:1コース約3キロ・15〜20分/大人2,000円・小人1,000円(繁忙期2,200円・1,100円)/14名以下は予約不要
  • 埼玉県立自然の博物館:上長瀞駅から徒歩5分
  • 季節:紅葉は11月。夏は舟とかき氷
  • 所要:半日、舟を入れるなら一日

秩父が織っていた布

秩父についてもうひとつだけ。線路の反対の端にある町の話です。

川目当ての人が来るようになるより前、ここは絹の谷でした。織られていた布を秩父銘仙(ちちぶめいせん)といい、2013年12月26日に国の伝統的工芸品に指定されています。

変わっているのはほぐし捺染という技法です。明治41年(1908)に特許が取られたもので、経糸を粗い緯糸で仮に織り、その状態で型染めしてから、あらためて本当に織り上げます。柄を布ではなく糸に刷るので、表と裏の区別がない生地になる。しかも経糸と緯糸の色が違うため、見る角度で色が変わります。玉虫の羽と同じ理屈です。大正から昭和の初めにかけて、全国で着られました。

秩父市の熊木町に「ちちぶ銘仙館」があり、染めや織りにふれることができます。

この線でつながる記事

ここまで運んでくれた鉄道には、それ自体に一本の記事があります。

  • SLパレオエクスプレス——秩父鉄道はいまも1944年製の蒸気機関車をこの谷に走らせています。列車の名は、上長瀞の博物館にいるあの動物から
  • 三十槌の氷柱——真冬の6週間ほど、この上流の岩肌が凍りつきます
  • 52席の至福——東京から秩父までの道のりそのものを目的にしたいなら、西武が走らせているレストラン列車があります

こんな人に

風景は、成り立ちを知ったほうが面白いと思う人。東京から2時間以内で、川と木の舟と焼き魚が欲しい人。そして、地下20キロでできたものの上に立って、そのあと坂を上がってかき氷を食べたい人に。

注:運賃・時刻・舟の運航・博物館の開館時間はいずれも変わります。川の状況は日々変わります。おでかけの前に、各運営者の最新の案内をご確認ください。