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ペンキ塗り立て、18か国語で:日本の「注意書き」の話
文化

ペンキ塗り立て、18か国語で:日本の「注意書き」の話

日本は、注意書きの国です。ホームの端にも、エスカレーターにも、電車のドアにも、歩きスマホをやめてくださいという掲示にも、まだしていないことに対する「ご協力ありがとうございます」にも。

その多くは、あって当然の場所にあります。駅、寺社、デパート、人の集まるところ。けれど先日見つけたものは、そのどれでもありませんでした。東京の、ごく普通の住宅街の裏道。観光客が歩く理由のまったくない道です。

誰かがガードパイプを、明るく気持ちのいい青に塗り替えていました。そしてその足元に、ピンクのテープで路面に貼り付けられた2枚の紙がありました。

路面に貼られた手作りの紙。パイプを通す穴のまわりに、18か国語で「ペンキ塗り立て」が並ぶ

ふつうのほう

縁石の上にあるのは既製品です。赤と金で「WET PAINT/ペイントぬりたて」。東京都塗装工業協同組合が出しているもので、組合員の塗装店ならどこでも一巻き持っています。2言語、量産品、それで十分。

面白いのは、こちらではありません。

もう1枚のほう

もう1枚は、事務所のプリンタで刷って、同じピンクのテープで貼ってありました。伝えていることは同じ——ご注意、ペンキ塗り立て。それが18か国語並んでいます。

塗りたての青いガードパイプ。足元に「WET PAINT」の貼り紙、縁石には赤と金の既製タグ

言語表記
英語ATTENTION! WET PAINT
中国語請注意 油漆未乾
タガログ語PAALALA BASANG PINTORA
韓国語페인트 조심하세요
ドイツ語ACHTUNG! FRISCH GESTRICHEN!
フランス語ATTENTION À LA PEINTURE
スペイン語CUIDADO CON LA PINTURA
ポルトガル語ATENÇÃO TINTA FRESCA
イタリア語ATTENZIONE! VERNICE FRESCA
スウェーデン語Giv akt! Nymålat!
デンマーク語Giv agt! Nymalet!
ロシア語ОСТОРОЖНО! Окрашено.
トルコ語Dikkat ediniz. Yeni boyanmıştır
クロアチア語OPREZ! SVJEŽA BOJA
ポーランド語UWAGA Świeżo malowane
スロベニア語POZOR SVEŽE PLESKANO
アラビア語انتباه الصباغة غير جافة
日本語御注意 ペンキ塗りたて

右上には、印刷にはない文字が手書きで足されています。19か国語目でしょう。足りないと思った人が、その場で書いたのだと思います。

そして紙の真ん中、パイプを通す穴のすぐ横に、小さな字でこう書いてあります。

「ご注意 ペンキ塗りたて」を各国の言葉で表現してみました。

「してみました」。規則で定められているからでも、指導に従ってでもありません。どこかの土木事務所の誰かが座って作ったのであって、この一文の調子は、公的な掲示というより夏休みの自由研究に近いのです。

立ち止まる価値があるのは、ここです

この紙は、誰にも頼まれていません。組合の既製タグはすでに貼ってあり、それで足りていました。スロベニア語が入っているかどうかを検査に来る人は、いません。

そして並び順を見てください。西東京の裏道に、クロアチア語とスロベニア語。ほとんど同じ文になるスウェーデン語とデンマーク語が、わざわざ別々に。そしてタガログ語が上のほうにあって、ドイツ語やフランス語より先に来ている——この街で実際に誰が暮らし、誰が働いているかを知っていれば、この1点だけは「世界の言語一覧」ではなく、目で見た現実にもとづく選択だと分かります。

作った人は、読者層を想定していたわけではないと思います。ただ、誰の服にも——本当に誰の服にも——ペンキが付かないようにしたかった。過剰なのですが、その過剰さが少し胸に来ます。

日本に注意書きが多い理由

この1枚は作りこそ変わっていますが、動機は特別ではありません。いくつかのことが同時に働いています。

「迷惑をかけない」という軸。 日本の公共の作法をひとことでまとめるなら、これです。人の上着を汚すのは小さなことですが、まさにこの範疇に入ります。そして、この紙が向いているのは「責任を回避すること」ではなく「そもそも起こさないこと」のほうです。

謝る掲示。 工事の仮囲いの文言を読むと、驚くほど多くが謝っています。ご迷惑をおかけします。ご協力ありがとうございます。情報として機能するだけでなく、社会的な仕事をしている掲示です。

小さな会社の、大きな矜持。 紙の下には土木事務所の名前と、隅に塗装店の名前が入っています。その社名の半分が、まさにこの紙が警告している当のペンキで潰れている。写真のなかで、いちばん正直な部分です。

ただし、反対側も書いておきます

温かい話だけで終わらせるのは簡単なので、もう半分を。

注意書きの多さには代償があります。すべてに警告が付いていると、警告は目に入らなくなります。踏切や工事現場で、いちばんやってはいけないことです。「何かあったときに責任が移っている」ことを主目的にした掲示も、確かにあります。そして人の多い街では、外国からの旅行者に向けた、この紙よりずっと冷たい調子の掲示が増えてきました。歩きながら食べないでください、立入禁止、ここは私道です。

それらも読む価値がありますし、従う価値があります。そういう掲示は、ふつうの住宅街が受け止められる量を、来る人の数が超えはじめた場所に現れます。

読めると助かる注意書き

日本語版の読者にはおなじみですが、外国からの友人を案内するときの一覧として。

掲示英語で言うと
立入禁止No entry
私有地Private land
通り抜けできませんNo through access
足元注意Watch your step
頭上注意Mind your head
撮影禁止No photography
関係者以外立入禁止Staff only
ペンキ塗りたてWet paint

場所は書きません

どこの通りかは、あえて書いていません。この記事に地図もありません。人が暮らしている住宅街だからです。家があり、通学路があり、名所になることに同意していない人たちがいます。そもそも、あの貼り紙はもう無いはずです。ペンキはその日のうちに乾きました。

大事なのはあのパイプではなく、こういうものが日本中の——どのガイドブックにも載らない道に——普通にあるということ、そして目線を上げずに、足元を見ている人にしか見つからないということです。住宅街は静かに歩き、カメラは窓ではなく路面に向ける。そうすれば、自分の1枚が見つかります。

追記:貼り紙より、貼った人が気になった方へ

この話で残ったのが看板ではなく作業員のほう——小さな会社、ピンクのテープ、誰も見ていない仕事への手のかけ方——だったなら、日本にはまさにその人たちのプラモデルがあります。舗装工事の4体セット。若手のレーキ作業員(女性)、プレート作業員、ベテランのスコップ作業員、一輪車作業員です。

未塗装・要組立で、接着剤は箱に入っていません。何が入っていて、何を自分で用意するのかは別の記事に書きました。

注:表の各国語表記は、実際の貼り紙の印字をそのまま書き起こしたものです(表記の揺れも含みます)。

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