EN / JA
福蔵院:暮らしの中の静かな寺と、鐘のこと
東京

福蔵院:暮らしの中の静かな寺と、鐘のこと

訪れる価値のある寺が、有名な寺とはかぎりません。いちばん心に残るのは、暮らしと静かな信仰が今も寄り添う、小さな町の寺だったりします。東京・中野区白鷺の福蔵院(ふくぞういん)は、まさにそんな場所。観光名所の一覧より、自分の足で歩いてたどり着く——そういうお寺です。

町よりも古い寺

福蔵院は真言宗豊山派の寺院で、創建は1521年(大永元年)。500年を超える歴史を持ちます。今も日々の祈りが営まれる静かな寺で、御府内八十八ヶ所霊場の第14番札所。江戸時代には、隣接する鷺宮八幡神社の別当寺も務めていました。

ここに、ひとつ素敵な話があります。この寺の山号は「白鷺山(はくろざん)」。そして周囲の町名「白鷺」は、寺のこの山号に由来しています。町が寺を名づけたのではなく、寺が町の名の始まりだったのです。あなたは今、ささやかにこの町の「はじまり」に立っています。

福蔵院の本堂と、境内に咲く早春の花木

鐘楼と、鐘の意味

本堂の右手に立つのが鐘楼(しょうろう)。そこに吊るされた青銅の梵鐘(ぼんしょう)は、1749年(寛延2年)に鋳造されたものです。

ここは生活の中の厳粛な信仰の場所です。観光地ではないため、静かに参拝してください。鐘付き堂には登れません。鐘は仏教の教えに基づいた宗教的・精神的な意味が込められています。あなたは鐘に触れることは許されていません。

日本の仏教寺院において、鐘は音楽の楽器ではありません。ひとつ撞くごとに、深く、ゆっくりと消えていくその響きは、祈りへ、静けさへ、気づきへと誘う「呼び声」です。その音はあらゆる生きとし生けるものに届き、苦しみからの、ひとときの解き放ちをもたらすと信じられてきました。鐘の音を聞くことは、心を鎮めることでもあるのです。

それがもっとも表れるのが、大晦日除夜の鐘(じょやのかね)——「過ぎゆく夜の鐘」です。日本各地の寺で、年が改まるその時、大きな鐘が108回撞かれます。この数は、でたらめに選ばれたものではありません。仏教の教えでは、人の心は108の煩悩(ぼんのう)——苦しみを生む、欲望や執着、迷い——に悩まされるとされます。鐘をひとつ撞くごとに、その煩悩がひとつ祓われ、澄んだ静かな心で新年を迎えられる、と考えられてきました。習わしでは、107回を旧年のうちに撞き、最後の108回目を、年が明けた直後に響かせます。

梅と、その香り

福蔵院がいちばん美しいのは、晩冬かもしれません。が、黒く反り上がる屋根の曲線を背に咲くころです。梅は桜よりずっと早く、ほかにほとんど何も咲いていない季節に花をひらきます。

福蔵院の屋根の曲線を背に咲く梅

そして、写真がどうしても運べないものがひとつ——香りです。桜にはほとんど香りがありませんが、梅は澄んで甘く、かすかに香ばしい薫りを放ち、冷たく静かな朝には、それが境内いっぱいに漂います。日本では昔から、梅は目より先に鼻で気づく花でした。千年前の歌人たちも、その香りを詠んでいます。よく晴れた冬の日にここに立てば、その気持ちがすぐに分かるはずです。

福蔵院の、冬の深い青空に映える梅

境内の、静かな宝もの

少し目を凝らすと、この寺は小さな贈りものを差し出してくれます。そのひとつが、江戸時代の石像十三仏(じゅうさんぶつ)。それぞれの仏さまが、亡き人の忌日を一つずつ見守っています。境内にはこのほか、絵馬の掛けられた小さな絵馬堂、そして木立の中に立つ御嶽神社もあります。

お寺の境内に、神社。日本では、ごく自然な光景です。長いあいだ、仏と神は対立するものではなく隣り合うものとして、神仏習合という形で結ばれてきました。福蔵院自身、かつては隣の八幡神社の別当寺を務めています。今も多くの日本人が、なんの矛盾も感じずに両方に手を合わせます。木立の下の小さな社は、その長い付き合いの、生きた名残なのです。

いずれも展示物ではなく、祈りの場所です。小さく一礼し、静かなひとときを——それが、この場所にふさわしい向き合い方です。

福蔵院の本堂と境内。青空に白い花をつけた木

よく晴れた冬の朝、この場所はこんな顔をしています。大きく反った瓦屋根、花をつけた木、刈り込まれた植栽、そして人影はほとんどなし。駅から数分のところで、街からはずいぶん遠いところに来たような気持ちになります。

お寺の、もうひとつの香り

境内の香りが梅なら、お堂そのものの香りはお香です。日本のお堂に一歩入れば、すぐにそれと出会います。そして梅とちがって、こちらは持ち帰れる香りです。

こんな静かなお寺なら、選びたいのは白檀(びゃくだん)。やわらかく、乾いていて、ほのかに甘い。安価なお香のような煙たさがありません。日本人なら誰でも、ひと嗅ぎで「お寺だ」と分かる香りです。

考えてみると、お香はお土産としてほぼ完璧です。平たく、軽く、高くない。そして棚で埃をかぶることがなく——使うたびに、ほんの数分だけ、東京の静かなお堂に戻してくれます。

基本情報

  • 名称: 福蔵院(ふくぞういん)/真言宗豊山派
  • 所在地: 東京都中野区白鷺1-31-5(〒165-0035)
  • 最寄り駅: 鷺ノ宮駅(西武新宿線)——徒歩約2分
  • お願い: ここは地元の人々が日々お参りする、生きたお寺です。観光施設ではありません。どうか静かに、声をひそめて、境内の掲示に従ってお参りください。

こんな方へ

有名な名所とは違う、静かな町の寺にこそ心惹かれる方へ。500年の、ゆるやかで、ありふれた静けさと、それよりもさらに古い意味を持つ鐘の音。そっと訪れて、来たときと同じ静けさのまま、後にしてください。

注記:福蔵院は現役の信仰の場です。お参りの方々への敬意を忘れずに、訪問時は境内の掲示・案内をご確認ください。

アフィリエイト情報:この記事にはAmazonアソシエイトおよび楽天市場のアフィリエイトリンクが含まれています。リンク経由のご購入は、追加費用なしでこのブログを支援することになります。